コラム

借主に出て行ってもらいたい!不動産賃貸借 2017.11.21

Aさんは親から相続したテナントビルを、現在、賃貸に出しています。しかし、ビルも古くなってきたし、そろそろ立て替えることを検討しています。ビルを新しく立て替えれば、これまでより賃料を高く取ることができそうです。そこで、現在の借主であり、ビルの一部屋で飲食店を経営しているBさんには、次の更新の時には出て行ってもらい、ビルを建て替えようかと考えています。

1 賃貸借契約の更新拒絶について

Aさんは、次の更新の時には簡単に賃貸借契約の更新をしないで、Bさんに出て行ってもらえると思っているようですが、それは大きな勘違いです。

すなわち、賃貸借契約の更新を拒絶するには、「建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」と法律で定められているからです(借地借家法第28条)。

これがどういうことかというと、貸主・借主双方の建物を必要とする理由以外にも、さまざまな事情を総合的に判断して、正当の事由があると認められなければ、契約の更新拒絶は認められないということです。

2 正当の事由とは?

まず、AさんとBさんの建物の使用を必要とする事情について考えてみましょう。

Aさんは、建物を取り壊して、新しいビルに立て替えたいと思っています。他方で、BさんはAさんのビルで飲食店を経営しています。飲食店は立地条件が非常に重要であり、仮に移転した場合には、今までのお客さんが離れてしまう営業上のリスクがあります。

Aさんは自分で建物を利用するわけではなく、また、現状でもBさんからの賃料が入ってきているのですから、どうしても建物が必要というわけではないと言えそうです。しかしBさんにとっては、建物を出ていくということは、経営危機を意味しますから、AさんとBさん、どちらが建物をより使用する必要があるかといえば、Bさんだと言ってよいでしょう。

また、ビルが古くなってきているということは、法律のいう「建物の現況」の一要素になりそうです。しかし、更新を拒絶できるような建物の「老朽化」とは、単に築年数が経過しているということを指すのではなく、建物が今にも崩れ落ちそうなほど朽廃しているような状態を指すことが多いので、通常の利用に耐えうる状態の建物であれば、それだけで更新拒絶が認められることにはなりません。

そのほか、Bさんがこれまで周囲とトラブルを起こしたり、賃料を支払わなかったりするようなことがない、特に問題のない借主であった場合、Aさんがただ「次の更新はしない」と言っても、それが認められる可能性はまずないと言ってよいでしょう。

3 立退料について

ここで特に重要になってくるのが、法律のいう「財産上の給付」すなわち立退料です。AさんはBさんに対して、立退料を支払うことによって、Bさんに傾いている「建物利用の必要性」の天秤を、自分の方に傾けることができるのです。

それでは、立退料として、AさんはBさんに対していくら支払えば、賃貸借契約の更新を拒絶できるのでしょうか。

立退料を決める要素としては、①移転費用、②営業補償、③借家権価格などが挙げられています。

移転費用の内訳としては、引っ越し代金や物件の仲介手数料、差額分の家賃、挨拶状の発送費用などが含まれるでしょう。特に、差額分の家賃については、何年分負担しなくてはならないのかという問題があります。公共用地の収用についての基準が参考になるとの見解もありますが、これもすべてのケースに当てはまるわけではありません。また、Bさんが必要以上に賃料の高い物件に転居しようとしている場合など、実際にその物件でなければ営業ができないのか、他にもっと賃料の安い物件がないのかなど、様々な要素を踏まえて判断しなくてはなりません。

営業補償についても、例えば移転によってBさんが経営する飲食店の売り上げの減少が見込まれる場合には、Aさんはこれを一定期間、補償する必要があります。飲食店は立地条件が集客に大きな影響を与えるため、移転によって何らかの影響が出ることは避けられませんが、具体的にどのような影響が出るか、正確に判断するのは難しいかもしれません。

借家権価格については、借家権が財産上の権利として認められているとはいえ、一般的に取引されているものではないため、価格を算定するのが難しいという問題があります。

つまり、立退料の算定における判断基準としては複数のものがありますが、結局のところ、明確な相場は存在しないというのが実際のところです。

とはいえ、設例のAさんのように、「次の契約更新のときに出て行ってもらおう」という軽い気持ちでは、建物を明け渡してもらうことは、まずできません。立ち退き料を支払ってでも建物を立て直して新しいテナントを募集するか、これまでどおりBさんとの契約を続けるか、どちらがAさんにとってメリットが大きいのか、慎重な判断が必要だといえます。

なお、設例ではBさんは建物を飲食店として利用していましたが、仮に建物を住居として利用している場合にも、もちろん立退料の問題は出てきます。住居として建物を利用している場合には、Bさんの生活の拠点が奪われるという、目に見えない不利益を、どのようにしてお金で評価するかが問題となりますので、建物で営業をしている場合以上に、難しい問題があるといえます。

以上

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