コラム

家賃を値上げしたい!不動産賃貸借 2017.10.03

Aさんは先祖から引き継いだ土地上にテナントビルを建築し、複数の企業等に貸しています。賃借人の多くは約30年の間、更新を繰り返しながら建物を借り続けており、Aさんとも関係は良好です。このため、Aさんは賃料も30年の間、据え置いてきました。しかし、Aさんからは息子のBさんから、賃料が安すぎるのではないかと言われてしまいました。そこで、なじみの不動産屋さんに相談してみたところ、確かに周囲のテナントビルは、Aさんのビルよりも高い坪単価で募集を出しているようです。

1 賃料は増額できるのか?

まず、そもそも契約期間中、賃料を増額することはできるでしょうか。これについて、借地借家法には「賃料増減請求権(第11条、第32条)が定められています。これは、固定資産税等の負担が増減したり、地価や建物の価格が増減するなど、経済事情が変動したり、付近の同種建物の賃料と比較しても大きな開きが出てきたりした場合には、賃料の増減額が請求できるという規定です。

したがって、賃料が安すぎる場合には、貸主は借主に対して、家賃の値上げを求めることができます。

2 適正な賃料とは?

それでは、Aさんが新しく請求できる適正な賃料とはいくらくらいなのでしょうか。確かに、周囲のテナントビルの賃料と比較して、Aさんのテナントビルの賃料は安いようです。そうだとしたら、Aさんは、借主に対して、周囲のテナントビルの賃料と同じくらいの賃料への増額を請求できるのでしょうか。

賃料には、「新規賃料」と「継続賃料」という考え方があります。「新規賃料」とは、新たに賃貸借契約を締結する場合の賃料を指します。不動産屋さんの店頭などで出ている賃料は、新しくテナントを借りる場合の賃料ですので、「新規賃料」といえます。

しかし、今回の場合、Aさんのテナントビルに入居している借主は、みな、30年も同じ賃料で入居しています。この場合には、「新規賃料」は適用されません。すなわち、賃貸借契約が継続している間の賃料は、「継続賃料」が適用されます。「継続賃料」とは、「継続にかかる特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料」と定義づけられています。

すなわち、継続賃料は、単に「景気が良くなったから」とか、「建物の固定資産税が上がったから」というような一般的な事情だけでなく、これまでの貸主・借主間の個別的な事情まで考慮して決定する必要があるのです。

継続賃料の算定方法は、不動産鑑定では、①差額配分法(新規賃料との差額に着目する手法)、②利回り法(元本価格と利回りに着目する手法)、③スライド法(経済情勢の変化に着目する手法)、④賃貸事例比較法(類似の事例に着目する手法)などの方法によって算定されます。

継続賃料の算定は、不動産鑑定士の先生でも頭を悩ませるほど難しいものであると言われていますが、Aさんの場合には、これまで賃料が30年間据え置きだったという事情も、継続賃料の算定においては重要な要素となってくるといえるでしょう。

Aさんがなじみの不動産屋さんから紹介された周囲のテナントビルの賃料というのは、「新規賃料」のことであると思われます。しかし、必ずしも「継続賃料」は「新規賃料」とは一致しないこと、また、賃料増額請求の場合の継続賃料は、一般的には新規賃料よりも低額になる傾向があることに注意が必要です。つまり、周囲のテナントビルが募集を出している坪単価どおりの賃料が、Aさんの場合でも適正であるといえるかどうかは、慎重に検討しなくてはなりません。

3 賃料増額請求の手続きは?

Aさんは不動産鑑定士の先生に相談して、継続賃料を算定してもらったところ、やはり現在の賃料は安すぎると考え、テナントに対して賃料の増額を請求しようと決めました。そこで、どのような手続きを取るべきでしょうか。

① 交渉の開始

まずは賃料増額について、借主と交渉を開始しましょう。賃料増額請求の効果は、その意思表示が相手方に到達したときから発生します。つまり、借主に賃料の増額を求めたとき以降から、賃料の増額を求めることができるのです(なお、過去に遡っての増額請求は認められません)。このため、いつ、賃料の増額を請求したか客観的に明らかにするために、賃料の増額を求める内容を記載した内容証明郵便を相手方に発送するのが良いでしょう。

② 調停の開始

話し合いが決裂した場合には、裁判所で調停を行います。調停とは、裁判所で裁判官や調停委員(賃料増額請求の調停の場合には、不動産の専門家であることが多いです)を交えて、話し合いによって解決を図る手段です。第三者が間に入ることで、当事者だけで行っていた交渉よりも、スムーズに進むことも期待されますが、あくまで話し合いですので、当事者が合意できなければ、調停は不成立となります。

なお、賃料増額請求は、法律上、訴訟を起こす前に調停を行わなければならないとされています。このことを、調停前置主義(ちょうていぜんちしゅぎ)といいます(民事調停法第24条の2)。このことは、当事者の長期間にわたる信頼関係が重要である賃貸借契約における争いごとについては、まずは話し合いで解決することが望ましいと考えられているためです。

③ 訴訟の提起

調停を行っても、借主との間で合意ができない場合、訴訟を行うことになります。訴訟では、多くの場合、裁判所が選任した不動産鑑定士による継続賃料の鑑定が行われ、その結果に基づいて適正な賃料額が判断されます。

4 賃料増額が認められるまでの賃料額は?

賃料増額請求の効果は、賃料増額の意思表示が借主に送達されてから、すなわち、一般的には内容証明郵便が借主に届いてからであることはご説明しました。それでは、交渉から始めて、裁判で判決が出るまでの間の賃料はどうなるのでしょうか。

これについては、借地借家法で、賃料増額請求があった場合でも、借主は、従前どおりの賃料を支払えば足りると規定されています(借地借家法32条2項など)。すなわち、借主は従前どおりの賃料を支払っていれば、賃料未払いとなることはありません。

しかし、裁判で賃料増額を認める判決が出た場合、借主はこれまで支払っていた賃料との差額については、年1割の利息を付けて支払いをしなくてはなりません。

なお、これは借主から賃料の減額請求がなされた場合も同様で、貸主は賃料減額請求がなされても、従前どおりの賃料を請求することができます。しかし、賃料の減額を認める判決が出た場合には、貰い過ぎた賃料に年1割の利息を付けて、借主に返還しなくてはなりません。

以上

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