コラム

そんな話聞いてない! ~重要事項説明義務違反・告知義務違反~不動産賃貸借 2017.07.20

これまで住んでいたアパートから、引っ越しを決めたAさん。町の不動産屋さんに行って希望を伝え、何回も内見を繰り返し、やっと見つけた物件を、「特に問題はなさそう」と判断して、賃貸借契約を締結しました。ところが実際に住んでみると、契約前には知らされていなかったことが、いろいろと明らかになってきました。

ここでは、Aさんが後から知ったことが、①建物に抵当権がついていることだった場合、②おばけがでる建物だった場合に分けて考えてみましょう。

1 重要事項説明義務とは

不動産の取引において、宅建業者は、宅地・建物の売買・交換・賃貸等の相手方等、取引の当事者に対して、契約が成立するまでの間に、取引をしようとしている物件や取引条件など一定の重要な事項について、それらを記載した書面(これを「重要事項説明書」といいます。)を交付し、取引主任者をして説明させなければなりません(宅建業法35条1項、2項)。

そこでまず、何が「重要事項」に該当するかが問題となります。何が重要事項に当たるかどうかは、宅建業法に定められています(宅建業法35条)。

・物件に関する権利関係

登記されている権利の種類や内容など

・物件に関する制限内容

都市計画法や建築基準法などの制限を受けるか否かなど

・物件の属性

ライフラインの整備状況やアスベストの使用の有無など

・取引条件

代金額や解除、賃貸借契約の際には契約期間など

・取引に当たって宅建業者が講じる措置

手付金の保全措置等

・取引の対象が区分所有建物の場合には敷地の権利、共有部分に関する規約など

2 Aさんの場合

・設例①の場合

建物に抵当権がついていることは、宅建業法が挙げる、「物件に関する権利関係」に該当します。したがって、建物に抵当権がついていることについて、重要事項説明書に記載がない場合には、Aさんは宅建業者に対して、重要事項説明義務違反に基づいて、責任追及ができると言えます。

また、宅建業法上、「登記されている権利の種類や内容」について、重要事項説明書によって説明をしなくてはならないとされているので、単に、重要事項説明書に「抵当権・有」と記載されているだけでは足りません。具体的に債権額、債権者、債務者等の抵当権の「内容」を記載する必要があります。重要事項説明書への記載に代えて、登記簿謄本を添付することも可能ですが、その場合は、「別添登記簿謄本参照」などと重要事項説明書に記載するとともに、登記簿謄本を重要事項説明書と一体的に交付する必要があります。

これは重要事項説明書のひな型でも、不備が多く見られる点ですので、宅建業者さんにも、よく注意していただければと思います。

賃貸用の建物を建築する際に、建築資金の借り入れのため、出来上がった建物に抵当権を設定すること自体は、珍しいことではありません。しかし、万一抵当権が実行され、建物が競売にかけられた場合には、抵当権設定後に入居した賃借人は建物から出ていかなくてはならなくなるため、建物に抵当権がついているかどうかは、建物を借りる際には是非確認しておきたい事項のひとつです。

・設例②の場合

それでは、Aさんが借りた建物はおばけが出る建物だった場合はどうでしょうか。宅建業法では、「建物におばけが出るかどうか」について、重要事項説明書に記載しなくてはならないという具体的な定めはありません。しかし、宅建業法では、「宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすことになるもの」についても、宅建業者は告知をしなくてはならないとされています(宅建業法47条)。

そこで、建物におばけが出ることが、「建物を借りるかどうかの判断に重要な影響を及ぼすものか」が問題となります。

3 心理的瑕疵について

天井から雨漏りがするとかいうような、目に見える物理的な欠陥はないけれど、「気持ち的に嫌」という建物の欠陥のことを、「心理的瑕疵(しんりてきかし)」と言います。心理的瑕疵についても、建物を借りるかどうかの判断に重要な影響を及ぼすものですので、仲介業者には、契約締結前に、それを告知する義務があるといえます。

しかし、どの程度の内容を告知すべきなのかについては、難しい判断が求められます。例えば、その建物で自殺者が出たというような場合、いつ事件が起こったのか、事件が起こったのは建物のどの部分なのか、建物の使用目的は居住用か、事業用かなどの事情を総合的に勘案して、告知義務を認めるかどうかの判断が求められます。

そこでAさんの場合に話を戻すと、建物におばけが出る原因が、最近その建物内で不幸があったことのようである場合、「おばけが出ること」というよりも、「最近、建物内で不幸があったこと」を告知されなかったことを理由として、仲介業者に対して損害賠償を請求できるかもしれません。他方で、Aさんが他の人には見えないものが見えるような敏感な人で、ほとんどの人には全くおばけが見えないような場合には、仲介業者にそれを告知する義務があるとまでいえるかどうかは、なかなか難しいかもしれません。

4 貸主への責任追及について

今回は、主に仲介業者への責任追及について記載しましたが、建物の貸主(売買の場合には売主)にも、契約上または信義則上、契約を締結するか否かを判断するについて重要な事項については、契約締結前に告知すべき義務がありますので、Aさんは貸主に対しても、責任を追及することができます。

以上

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